春は二階から落ちてきた。
で始まる本書は心地良い春の風に吹かれるような気分にさせてくれる。
本来なら非常に重い題材であるこのストーリー、もっと悪く言えばよくネタになる暗いテーマのストーリーだが
伊坂マジックにかかると面白いスタイリッシュな作品になる。
ミステリー要素があるので本気出して解いてみたもののあまりにも簡単にわかったのと最後まで読んで、
ミステリー部分は重要なファクターにせず気休め程度の味付けに収めていることに気づいた。
この物語は兄弟愛と家族愛の作品であり、現代小説である。
一風変わった趣向の人物たちの集まりでありながらそれらを見事に描き現代に生きる我々に爽快感を与えてくれる。
秀逸なところは社会性を重視していない点だと思う。
例えば「青の炎」のような
犯罪に手を染める少年の心情を重く受け止め、それに伴う罪と罰といった現実社会のあり方による深い感動を与えてくれる作品では無い。
そこをうまく回避しているのがシュール感であると思う。
だから軽快に爽快な読後感が残る。
また、作中で彼の美術に対しての造詣が深いことはよくわかるんだがここに面白いことが書いてある。
騙し絵で有名なエッシャーは「芸術は進化しない」といったそうだ。
進化する科学のようなものとは違う、だから芸術はそのたびに全力疾走をしなければいけない。
文章というものも進化しないだろうなーって思った。
ただ世界は動いていく。
文章は現代に痕跡を残す。
伊坂幸太郎は達観してるよね。
相変わらず「軽快このうえない語り口、きらめく機知、洗練されたユーモア感覚、そして的確で洒落た引用と比喩」が効いている。(解説の引用)
彼の文章を見ていると蒼天航路を思い出す。
曹操と袁紹の開戦の宣告でのやりとりで陳琳があてた文書である。
その時の曹操の言葉をそのまま引用すると
「亡き祖父・父の誹謗中傷にはじまり
この曹操の半生をここまで貶め蔑み愚弄するか~~~
中略
この美しき文言
この美しき配列・韻律・音調・苛烈な行間に潜む嗣宗・洒脱・品格
言葉というものは学べるようでいてない者には永久に身につかぬのだ
この言葉は袁紹とは何の関係もない
この才人の筆で宣戦布告が受け止められたことは実に喜ばしい」
このくらい伊坂幸太郎の文章は誉めていいと思う。
伊坂作品は点数をつけにくいなあ。
作品全部込みで評価したほうがいんじゃないかっていう。
なのでラッシュライフと同じくA評価ということで。
どの作品も読んでる間面白くて読後感は爽快だ。
そういえば、さかもとくんに「どんどん橋、落ちた。」を読ませたら
綾辻さん嫌いですとか言うので十角館の殺人を読ませた。
こちらを読んだら綾辻さん大好きになりましたと笑顔だった。
推理の展開を多少うざく聞いてみたんだがひどい推理だったので安心した。
また東野圭吾の「仮面山荘事件」も読ませて雪絵さんのことについて聞いてみたが
彼はあまり好きなタイプでは無かったようで不満を口にしていたので嬉しかった。
PR