ロシア幽霊軍艦事件 島田荘司著
この本は2000年に中篇として書かれたものに大幅に加筆修正して2001年に単行本となった。
タイトルが悪いという意見がある。しょうがねえな、かわりにタイトルをつけてやるぜ!
「アナスタシアへの脳アプローチ」
で、いんじゃないかな。直球すぎだが気にするな。
日本にはあまり知られていない話だけれど、1918年7月17日午前2時半頃、ロマノフ朝第14代ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世とその一家が全員イパチェフ館の地下で銃殺されたが埋葬されていた遺体は皇帝ニコライ2世と皇后、4人の娘のうち3人であり、皇太子アレクセイと皇女マリアorアナスタシアの遺体は発見されなかった。レーニンはイギリス・ドイツを刺激したくなかったのでニコライ2世は処刑したが家族は安全な場所にいると発表した。そのため、私はアナスタシアです!と謳う偽者がわりあい多く出てきたらしい。その中で一番有名であり現在でも論争されているアナ・アンダーソンという女性がアナスタシアであると名乗り出る。
本書はこの問題について御大がアナスタシアの成否を何故今まで脳科学に結びつけて考えないのかという疑問により完成させた作品である。アナ・アンダーソンの嘘くさいとされる要素のほとんどが高次脳機能障害の症状に似ている事に気づき、かつアナ・アンダーソンは頭部に陥没骨折が数箇所ある。
アナスタシアとアナ・アンダーソンの2つの史実を1人の女性の連続した人生であるという考えで、そこの穴埋めを魅力的なストーリーと気宇壮大なミステリーとで完成させたこの小説は傑作だと僕は思う。是非、読んで頂きたい一冊だ。
元々は中篇であり、今回は殺人事件などでは無く多少ジャンルが違うものであることも考慮してAランクかなあと思う。終盤はなかなか感動的な男女の恋愛話で舞台も圧巻だが御手洗潔ものを読む人はこの部分については余計に感じる人も多いかと思うし。
最後にこの本を読んで思った事を一つ。
アナスタシアの母アレクサンドラ皇后はヴィクトリア女王の血筋である。すなわち血友病因子を持つ。血友病の遺伝法則はメンデルの法則に完全に従っている。故に皇太子アレクセイは血友病であったし、皇女4人は血友病因子を持っていた。血友病因子の発見は難儀でありDNA鑑定が必要であるが、アナ・アンダーソンが生きていた間にこれの鑑定はしていないんだろうか。血友病の因子はヴィクトリア女王の様に突然変異により生まれ持つケースもあるが、アナ・アンダーソンが偽者であった場合、これまた都合良く血友病因子を持っている可能性は低いはずであり、何ならフランツィスカ・シャンツコフスカの家族も血友病の調査をすれば良い。
これもまた一つの解決策にはならないのかなーなんてアマチュアは考えさせられたのであった。終わり。